西宮市平和・無防備都市条例(案)

(前文)
 わたしたち西宮市民は、「青い空、緑の大地、そして、おだやかな暮らしは、わたくしたち西宮市民のみならず、平和を愛するすべての人の願い」「平和を愛する社会をはぐくみ、築くことを誓い」とうたった平和非核都市宣言を、兵庫県内でいちはやく採択した。市長を先頭に市ぐるみで核兵器の廃絶と平和を追求してきた西宮市は、子どもたちの未来のために緑豊かな文教住宅都市を残そうと努めてきた。
 ところが、わたしたちの願いとはうらはらに、今なお戦争・殺戮は絶えず、罪のない無抵抗な人々が犠牲になっている。
 今こそ、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認し、諸国民の公正と信義に信頼して安全と生存を保持する」ことを誓った日本国憲法を活かさなければならない。貧困の撲滅と不平等の克服によってこそ戦争の火種をなくすことができる。
 西宮市は、多数の犠牲を出した第2次世界大戦や阪神・淡路大震災の教訓などから、平和の問題を国だけにまかせるのではなく、住民の命と財産を保護する立場から、平和を実現しようと努めてきた。
 住民の保護を第一義的責務とする地方自治体は、全世界に向かって平和の意志を発信し、諸国民と平和友好関係を構築することができる。全世界の自治体がこぞって戦場となることを拒否するとき戦争は起こせなくなる。
 平和非核都市を誓った西宮市は、日本国憲法と国際人道法の精神・条文を活かし、ここに「平和・無防備都市条例」を制定する。

第1条(目的)
 本条例は、国際平和を誠実に希求し、戦争と武力を永久に放棄するとした日本国憲法、国のかかげる非核3原則、ジュネーヴ諸条約等の国際人道法に基づくものであり、西宮市平和非核都市宣言を発展させたものである。本条例は、西宮市が、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第59条に定める無防備地区(以下、「無防備地域」という。)の宣言を行なうことなどを定め、市の責務として市民の平和と安全を保障することを目的とする。

第2条(市民の平和的生存権)
1.西宮市民は、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
2.西宮市民は、その意に反し、戦時のみならず平時から軍事を目的にした市民権の制約や財産権の侵害、自然環境の破壊を受けることはない。

第3条(市の責務)
1.西宮市は、戦争に関する事務をおこなわない。
2.西宮市は、軍事施設の建設を認めない。
3.西宮市は、その他前条に反する行為をおこなわない。

第4条(非核政策)
1.西宮市は、非核3原則を遵守し、市内における核物質の製造・貯蔵・持ち込みを禁止する。
2.西宮市は、核兵器(劣化ウラン兵器を含む)その他大量破壊兵器の製造・運搬・使用等を禁止し廃絶するための措置を国際機関、関係国、関係諸団体などに働きかける。

第5条(無防備地域宣言)
1.西宮市は、平時から無防備地域の条件を満たすように努める。
 その条件とは、次のとおりである。
 (1) すべての戦闘員並びに移動兵器及び移動軍用設備が撤去されていること。
 (2) 固定した軍用の施設又は営造物が敵対目的に使用されていないこと。
 (3) 当局又は住民により敵対行為が行われていないこと。
 (4) 軍事行動を支援する活動が行われていないこと。
2.西宮市は、戦時あるいはその恐れが明白な時、無防備地域の宣言を行い、日本国政府および当事国に通告する。

第6条(平和行政の推進)
西宮市は、世界平和の実現のために次の各号の事業を実施する。
(1) 平和のための国際交流事業、アジア諸都市との平和友好都市づくり
(2) 平和のための他の地方公共団体との交流・協力
(3) 学校教育の場での平和教育の充実その他戦争を起こさせない人材育成
(4) 平和意識の啓発・広報活動、憲法・国際人道法の普及・学習
(5) 平和記念物の保存・展示等
(6) 平和のためのNGOの育成、市民参加の平和事業の推進、市民がおこなう平和事業に関して共催等の必要な援助および助成
(7) その他、条例の趣旨に沿う平和のための事業

第7条(平和予算の計上)
 西宮市は、平和事業に必要な費用を毎年予算に計上する。

第8条(条例の施行細則)
 本条例の施行に必要な事項は、別途規則で定める。

付則
 1 本条例は、公布の日から施行する。
 2 本条例は、公布後すみやかに、翻訳文を付けて、国際連合事務局、国際連合加盟国その他の国に送付する。


注釈(当会による)

※第1条の「無防備地区」という表現については、日本政府の公定訳にしたがいました。

条例請求の要旨(「条例制定請求書」より 2005年4月22日)

 西宮市は1983年に兵庫県内でいち早く「平和非核都市」を宣言しました。安全で安心して暮らせる「文教住宅都市」と言われているのは、市と市民が、住みよい安全な街にするための努力を重ねてきたからです。「平和・無防備都市条例」はそれをさらに発展させる積極的な条例です。
 現在、米英軍等によるイラクなどへの攻撃と占領によって、多くの市民や子どもたちが命を落とし、生活を破壊されるという悲惨な現実が起きています。イラクからの軍隊撤退を決めた国は派兵国の約半数に上っているのにもかかわらず、日本政府は、イラク攻撃・占領を支持し、自衛隊を多国籍軍(占領軍)に参加させ続けています。さらに、有事関連7法・国民保護法が、「国民を戦争に協力・参加させる」法律として施行され、日本は「戦争をしない国」から「戦争に参加する国」になりました。
 私たちは、「平和の事は(命の事)は政府に任せるのではなく、市民ひとり一人がつくるものだ」と考えています。市民の安全を守るために軍事力(軍隊)はいりません。沖縄戦をはじめ、多くの場合、軍隊は一般住民を守りませんでした。
 ジュネーヴ諸条約第1追加議定書第59条を根拠とする「無防備地区」の宣言を地方自治体が行えば、攻撃してはいけない地域として国際的に効力を有します。それは、憲法9条の理念を積極的に地方自治体で実践し、平和のために不断の努力を行うという証であり、市民が2度と戦争の加害者にも被害者にもならないためのものです。
 市制80年、被爆60年の今年、憲法と国際人道法に基づいた実効性のある「平和無防備都市条例」の制定を強く望みます。


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