国会での政府答弁

※国・政府は「無防備地域宣言」を自治体がすることについて、否定的な解釈をとっています。
 しかし、赤十字国際委員会は、自治体も宣言できるという解釈をしています。
 

平成2年(1990年)10月18日
衆議院・本会議 中山太郎国務大臣答弁

 平和協力隊に参加する自衛官は国際法上文官なのか、軍人なのか、どういう扱いになるのか。紛争に巻き込まれたら、身柄を拘束された場合には、自衛官とそれ以外の協力隊員とは国際法上の取り扱いが異なることになると思うがどうかというお尋ねでございました。
 自衛隊は、憲法上必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。この点は、平和協力隊に参加している自衛隊の部隊等についても変わりはございません。平和協力隊の海外派遣に当たりましては、その時点での国際情勢等を十分勘案いたしまして、派遣先を含む基本方針等につき、関係閣僚により構成される国連平和協力会議の諮問を経まして具体的な実施計画を閣議で決定する等、慎重な対処を行いますことにより、平和協力隊が紛争に巻き込まれることのないように万全を期する所存であります。
 このことにより、自衛官である平和協力隊員とそれ以外の平和協力隊員との間で国際法上の取り扱いが異なることになるような事態は、実際問題として想定されておりません。
 次に、いわゆる多国籍軍への人員、物資の後方支援は、憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に当たるのではないのかというお尋ねでございました。
 いわゆる多国籍軍への協力は、我が国憲法の枠内で行うことが当然の前提であります。輸送等の協力につきましては、武力の行使と一体をなすような行為を行うことはないというふうに御認識をいただきたいと思います。

平成14年(2002年)6月28日
衆議院・武力攻撃事態への対処に関する特別委員会

○首藤委員
 それでは、佐久間陳述人にお聞きしたいと思うのですが、先ほどこのマークを見せていただきまして、ありがとうございました。
 現在、実はこういうものは結構学生さんとか皆さんがインターネットに載せたりしていて、インターネットでダウンロードしてカラープリンターでコピーをとればいいのかななんて思ったりもするのですが、ここで佐久間陳述人がお示しになったジュネーブの追加議定書、これは、御存じのとおり、多くの先進国が入っております。実は北朝鮮も入っているんですが、我が国はまだ入っていないということで、この点に関しましては、国会での論議の中で福田官房長官が、早い時期に日本も加入するということを考えているということを明言されておられます。
 しかし、この追加議定書は、第二議定書もあるのですが、いろいろ新しい視点をたくさん含んでおりまして、現在のような、文民や市民が非常に被害を受けるというところから、自治体の非武装宣言、無防備都市宣言ということがジュネーブの追加議定書で規定されているわけですね。
 例えば、仙台が無防備都市を宣言するとか、そういうことも可能性としてはあると思うのですが、佐久間陳述人は、非武装とか無防備都市宣言とかいうものに関してはどのような御意見をお持ちでしょうか。

○佐久間博信君
 現在、国際法上の言葉では非武装地帯というのはありません。中立地帯と申します。
 中立地帯というのはジュネーブ条約で定められておりまして、それに基づいて中立地帯をつくって、それを相手国それからジュネーブのあれに連絡する、あらかじめやる場合はそういうふうになっております。そのときの標識が、これも決められていますように、先ほどお示ししました標識であり、また、避難所の標識もこれであります。
 と同時に、中立地帯でも避難所でも、万一避難した人たちに対して難民やその他が乱暴したりしないように、武装した兵隊を置くことになっております。ですから、自衛隊の人間もそのことができるようになっておりますし、現在のジュネーブ条約では、軍隊にもこのことを教えるように言われています。ですけれども、日本はジュネーブの追加協定をやっておりませんので、今、多分この標識は日本の避難所のどこにもないと思います。

平成15年(2003年)4月24日
衆議院・武力攻撃事態への対処に関する特別委員会

○首藤委員
 官房長官、そんなことでは守れないからと言っているわけですよ。だれが考えたって、今の時代には都市は守れないんですよ。都市は戦争できないんですよ。
 では、どうするか。幾つかのやり方があると思いますけれども、そこで一つ出てきているのが、最近出てきているジュネーブ条約の追加議定書、第一議定書に出てくる都市の無防備宣言ですよね。うちは戦争と関係ありません、だからうちは一切そういう攻撃を受けませんということですけれども、これに対して前回も私は質問させていただきました、ほぼ一年前になりますが。
 これに対しては総務庁からも十分な回答が行われなかったんですね、それは国が認めるか認めないかだと。そうじゃないんですよ。これは、住んでいる人たちの自衛権として、都市の自衛として無防備都市宣言が行われることは十分にあり得るわけですね。こういった事態に対してはどういうふうにお考えでしょうか。一年後の対策ということで、違った意見をお聞かせ願いたい。
 ちょっと早くしてください、時間がないので。

○若松副大臣
 まず無防備地域、いわゆるジュネーブ諸条約、これの取り扱いでございますが、御存じのように、これはあくまでもソブリンティーの話でございますので、いわゆる国としてこの条約に対してどのように対処するかということでありまして、これは総務省が具体的に判断するものではないということを御認識いただきたいと思います。

平成16年(2004年)4月26日
衆議院・武力攻撃事態への対処に関する特別委員会

○平岡委員
 実は、今回の有事法制の整備の中では、先ほど言いましたように、七法案の審議とともに三条約の承認案件があるわけですね。その中に、ジュネーブ条約の第一議定書、第二議定書というものについての批准の問題がございます。
 このジュネーブ条約については、これまで長い間、批准できない状態で来たということで、今回批准するということについてはそれなりに大きな意味もあることだろうと思うんですけれども、ただ、これを批准したからといって、では、どう違ってくるんだ。いろいろな法案の中身が出てきていますけれども、必ずしもジュネーブ条約をそっくりそのままうまく受けとめていないんじゃないか、そんな懸念もあるわけですね。
 例えば一つが、無防備地区宣言というのがあるわけですね。
 これは、第二次世界大戦の中でもパリとかローマが大きな被害から救われたのは、そこを守っていた防衛守備隊長が、司令官が無防備地区を宣言するというような形で救われた。だから、東京なんかの大都市の場合、これだけの大規模なものは避難するといったってとても避難できないような状況にある、ということになると、もっと別のことを考えなきゃいけないということで、この無防備地区の宣言というのもあり得るのではないかという感じがします。
 それから、これは一九八一年ぐらいに報道された話ではありますけれども、沖縄の前島というところで、そこにいた校長先生が、上海にいた経験を生かして、前島は軍隊を全然入れないでここは無防備地区という形でいくんだ、そういう位置づけの中で沖縄戦の中で全く被害を受けなかった、そういう経験があるわけですね。
 私は、こういう経験をよく日本としても勉強しておかなきゃいけないんじゃないかというふうに思うんですけれども、この前、同僚議員の首藤議員がこの点についてちょっと質問したら、いや、この条約で宣言できる主体となっているのは地方公共団体なんかありませんと。
 多分、政府の考え方では、政府あるいはその地区を管理している司令官ぐらいしかないのかもしれませんけれども、私としては、国民の保護、住民の保護、守っていく責任を一義的に負っている地方公共団体の首長というのがやはり大きな役割を果たすんだろう、そうなると、たとえ政府のような立場に立ってみても、地方公共団体の首長が無防備宣言を出せないという立場に立ってみても、むしろ、地方の首長が政府に対して、あるいは権限ある者に対して、無防備地区宣言をぜひ出してくれというような要請をする権限というものをこの法整備の中でやっていったらいいんじゃないかというふうに思うんですけれども、この点、井上大臣、どうでしょうか。

○井上国務大臣
 武力紛争の当事者というのはあくまで国でありますから、国がどうするか、そういうことと大きく絡むことだと思います。いろいろな御意見があろうかと思うのでありますけれども、自治体が自治体だけの判断でやるというのは適当ではない、やはり国としてどうするか、無防備地区にするのかどうかというようなことを判断すべきだ、こんなふうに考えます。

平成16年(2004年)4月28日
衆議院・武力攻撃事態への対処に関する特別委員会

○大出委員
 大変いい方向だと思います。この文化財保護について、戦争経験ございませんけれども、第二次世界大戦のときにアメリカが、京都というところの文化財を保護しようという観点であそこには爆撃を避けたというようなことも現実にありまして、そういう観点があることがやはり重要なんだと思いますので、今のような方向でお願いをしたいと思います。
 それで、ここは自治体絡みの話なんですが、第一追加議定書の五十九、六十条のところなんですが、安全地帯だとか中立地帯だとかいろいろな呼び方はありますが、非防守地帯といいますか無防備地帯といいますかを自治体が宣言したとするとどうなるんでしょうか。

○増田政府参考人
 御下問は、今先生御指摘の第一追加議定書五十九条に言いますところの無防備地区というものを自治体が宣言した場合どうなるかということでございますけれども、私どもとしては、我が国におきましては、こういう宣言は国により行われるべきものであると考えておりまして、地方公共団体がこれらの地帯の宣言を行うことはできないものと考えております。
 したがいまして、特定の都市が御指摘のような宣言を行ったといたしましても、それはジュネーブ諸条約等において規定されているその宣言には当たらないものと考えております。

平成16年(2004年)6月1日
参議院・イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会

○大田昌秀君
 最後の一問、質問でございますけれども、ジュネーブ条約第一追加議定書の第五十九条では、紛争当事者の適当な当局は相手の攻撃が禁止される無防備地域を宣言できることがうたわれています。紛争当事者の適当な当局とは自治体も含まれると考えるべきだと思いますが、そこで、自治体が住民の生命を守るため無防備地区を宣言をした場合、国はその宣言を尊重しなければならないと理解してよろしいですか。井上大臣にお願いします。

○国務大臣(井上喜一君)
 正に国としてどういう対処をするのかということだと思います。
 したがいまして、対処基本方針というのを有事の場合に作成することになっておりまして、これは閣議決定をしてなおかつこの国会の同意を得ないといけないようになっておりますけれども、こういう中でやっぱり規定するのが本筋だと思うんですね。そういうことで、勝手に市町村がやりましてそれでやるというわけにはまいらないと思う。国としてどのように判断をするのかと、そういうことだと思います。

平成16年(2004年)6月2日
参議院・イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会

○榛葉賀津也君
 次の質問に移りたいと思います。
 ジュネーブ条約の第一追加議定書五十九条についてでございますが、これ、衆議院の議論の延長なんですが、四月二十六日に同僚の平岡衆議院議員が、このジュネーブ条約第一追加議定書五十九条、無防備地区宣言についてでございますが、質疑をされております。この無防備地区に関しまして、無防備地区宣言を自治体から政府に要請できる権限を入れるべきだというような質問に対しまして、井上大臣は、自治体だけの判断でやるのは不適当だと、国として判断すべき問題であるというふうな御答弁をされていますが、その答弁に変わりはないんでしょうか。

○国務大臣(井上喜一君)
 ええ、その答弁のとおりだと考えておりますけれども、要は、この武力攻撃を排撃するために国全体としてどのような反撃をしていくのかというようなことを考えました上で、この作戦を立て実行に移すわけでございまして、一自治体の考え方で全体の行動に影響を及ぼすようなことは適当でないと、そういうふうに考えているわけでございまして、正に国自身が責任を持って決定すべきことであるというふうに考えております。

○榛葉賀津也君
 平岡委員は、自治体が宣言をできるということではなくて、無論最終的に判断するのは国であるけれども、この自治体が要請をする権限、この権限を与えたらどうだというような議論なんですが、この点についても、自治体はそういった権限も持つべきでないというお考えでしょうか。

○国務大臣(井上喜一君)
 正に武力攻撃を排撃するのは国全体の立場に立ちて判断をすべきものでありまして、一自治体がその立場で全体に影響を及ぼすような判断をするのは適当でないと、そんなふうに考えております。

○榛葉賀津也君 この無防備地区に対しましては、四つの条件がこのジュネーブ条約五十九条の中にあるわけでございまして、(a)、(b)、(c)、(d)と四つの条件があるわけでございますが、この四つの条件をすべて満たさなければいけないと。ただ、この中に(b)の「固定された軍事施設の敵対的な使用が行われないこと。」というふうに入っているわけでございますが、そこでこの(b)についてですが、国内の米軍基地、これが(b)の軍事施設というものにこれ入るという解釈でよろしいでしょうか。

○国務大臣(井上喜一君) これは国際条約でありますので、外務省の方の御答弁の方がよろしいかと思うんでありますけれども、一般的には米軍の施設も入るというふうに理解をすべきだと思います。

○榛葉賀津也君
 私もそのように解釈しているんですが、入るとなると、これ実際に米軍施設が集中している沖縄なんというところはほとんどこの無防備地区の宣言ができなくなるおそれがあると思うんですが、その点について外務省はどのように御認識でしょうか。

○政府参考人(荒木喜代志君)
 お答え申し上げます。
 先ほど井上大臣の方から御答弁ありましたとおり、我が国が、ジュネーブ条約追加議定書の五十九条、この無防備地区を設定することが必要であると判断する場合には、政府として定める武力攻撃事態への対処に関する基本的な方針、対処基本方針、この中で定めるということになるというふうに承知しております。
 他方、五十九条の規定というのは、武力紛争が発生している場合に適用されるものであって、発生していない状況の下でこういうものを想定したものではございません。また、我が国に対する武力攻撃に対して無防備地区を実際に設定することとなるか否か、また設定することとする場合に具体的にいかなる地域、これに設定するのか。これは実際に武力攻撃が発生した後に、無防備地区が対峙する紛争当時者により占領されるということを前提に設定されるものであるということも踏まえて、その時点の状況に応じて個別具体的に判断されるべきものと考えます。
 ということで、実際の具体的な状況を離れて現時点において、仮定に基づいてお答えすること、これは難しいということを御理解いただきたいと思います。

○榛葉賀津也君
 そうですか。
 では、日本政府がこの無防備地区を宣言しようとして米軍から反対されたと、この場合は政府はどういう対応を取るんですか。これ宣言を取り下げることになるんでしょうか。簡潔にお願いします。

○政府参考人(荒木喜代志君)
 そういう、そもそも米軍との調整が必要となるか否か、また仮に必要となるとして、具体的にいかなる調整が必要となるか、これについては先ほど申しましたとおりに、繰り返しになりますが、仮定に基づく調整の在り方について確定的に申し上げることというのは困難です、であります。
 その上で、あえて一般論ということで申し上げれば、我が国は日本及び極東の平和及び安全に寄与するために米軍に施設・区域の使用を認めているのであって、そもそも武力攻撃事態等において我が国が米軍に施設・区域からの撤退等を求めることは想定されていませんし、また、日米安保条約の義務に従って我が国に対する武力攻撃を排除するために必要な行動を取っている米軍に対し、我が国が軍事行動の中止を求めることも想定されておりません。
 いずれにせよ、我が国に対する武力攻撃に際しては、日米両国は調整メカニズムの運用を早期に開始し、整合性を確保しながら適切に共同で対処することということになるということでございます。

○榛葉賀津也君
 もう一度聞きます。ちょっと簡潔に分かりやすく答えていただきたいんですが、荒木さんなりに分かりやすくお答えしたつもりかもしれませんが、もう少し分かりやすくお答えしていただけたらと思います。
 宣言をします、日本が。しかし、そこにいる米軍から困ると、ということがあった場合、日本政府はその宣言を取り下げることになるんじゃないんですか。

○政府参考人(林景一君)
 済みません。ちょっと基本的なところなんでございますけれども、まず無防備地区というものについてよく御理解いただきたいんでございますが、これは規定にも書いてございますとおり、相手国の占領のために開放するということでございまして、要するに、あるところがもう何ら、攻撃といいますか、相手の攻撃にさらされないようにそれをするということがその目的ではございますけれども、そのために言わばもう白旗を揚げて、そこを相手の占領にゆだねてしまうということなんでございます。その後、それじゃ、相手方はそれを占領してしまうわけでございまして、それをどういうふうに使うかということについて特段の制限があるわけではない、これを軍事的に利用するということだってあるわけでございます。
 そういうものであるということを認識した上で、我が国がそれをなおかつその無防備地区ということにするのかどうか。これは正に、それは軍事、全体的な軍事オペレーションの中で本当にそれが不可欠なのかどうか、それが本当に我が国の防衛という観点から必要かつ適切なのかということを判断するわけでございますけれども、当然そのときに、一方的に我が国が宣言をして、その後からアメリカと相談するといったようなことはそれは考えられないわけでございまして、当然のことながら、それは例えば、あるそれは飛行場なら飛行場があったといたしましょう。それが米軍の飛行場であった場合、これを言わば無防備地区として指定するということは、そこを相手の占領にゆだねるということなんです。それが今度は我が国の武力攻撃に使われるかもしれないと、そういうことも全部含めてそれは厳しい判断をしなければならないということでございますが、当然のことながら、日米間で十分なすり合わせがなされた上で行われるという話だろうと思います。